
番人の決意を読み返す
番人の肖像 境界線の引かれた地面に ひっそりと けれど確かに 白く刻まれた文字がある それは 誰にも譲らぬ領土の印 上流の濁った渦を 遠くに眺め 大きな傘を そっと畳む かつて盾だったものは いつしか鎖になり 守りたかった平穏は 冷ややかな視線に晒された 泥を浚う手は 決して潔癖ではない 自らの渇きを癒すための 計算も 静かな街を支配したいという 密かな熱も すべては この水を流し続けるための糧だった 向かいの窓から放たれる 無言の矢を 一輪車の影に 静かに沈める 功労と傲慢が 背中合わせに溶け合う場所で 番人は今日も 放流口の上に座る 「解散」という名の 最後の情けを飲み込み 選んだのは 最小の自由 誰とも繋がらず 誰の傘にも入らず ただ 地下を流れる命脈だけを この手に握る 後ろ指を指す声は 風の音に似ている 正しいことと 必要なことの狭間で 汚れた袖を 誇りとして 番人は 静かな夜の淵に立つ

網の目の中の呼吸
人間関係のストレスに寄せて 見えない糸が 幾重にも重なり この街を 大きな網のように覆っている 善意という名の粘着剤と 世間体という名の鋭い刺(とげ) 一歩踏み出せば 誰かの視線に触れ 口を開けば 誰かの解釈に書き換えられる 「良い人」という 無機質な型に入れられて 私は私を 少しずつ削り落としてきた 笑いながら 背中を探る指先 沈黙の裏で 増幅される足音 誰かの不機嫌を 自分の負債のように背負い 終わりのない「正解」を 探し続けてきた日々 けれど 知っている その網を編んでいるのは 実体のない影だと 私が握る鋏(はさみ)は 冷たくて鋭い 「無関心」という名の 一番贅沢な武器 つながりを断つことは 悪だろうか 孤立を選ぶことは 敗北だろうか 濁った水溜まりに 石を投げるのはもうやめて 私はただ 自分の足元の土を 踏みしめる 後ろ指を指す手が やがて風に消えるまで 私は 私の静寂を 誰にも渡さない 網の目の外側には 乾いた風が吹いている そこではじめて 私は深く 息を吸い込む


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